僕のおやじは請負で仕事をする自称一匹狼の大工でした、つまりフリーの大工です。
The 昭和の大工で、後先考えず、稼いだらパチンコやマージャン、また当時は棟上げ式後に現場で酒盛りをするので、必然に飲酒運転となり警察のお世話にもたびたび、、、エピソードはいろいろありますが、家族は大事にしており病気で大工ができなくなるまでは一所懸命に働いていました。
今は何とかぎりぎり生活していますが、若いころにFPのような人が近くにいれば、もう少し楽な老後が過ごせていたのではとつくづく思います。
おやじエピソードは尽きませんが、自分の腕一本で働く大工や土方の建設業者、運送業などの方の生活保障について考えてみました。
結論としてはまずは以下3つの公的制度ベースに、年齢や家族、子供の成長、持ち家かどうかなど、時期や状況に合わせて不足すると考える部分を、民間の保険などでカバー、余裕があればNISAやiDecoなどを活用した投資も組み入れていくのがよさそうです。
① 特別加入の労災保険に加入して仕事でのけがや病気に備える
② 小規模企業共済に加入して自分の退職金を準備
② 国民年金基金に加入して年金を増やす
特別加入の労災保険に加入して業務上のケガ対策
なぜ特別加入の労災保険に入るの?
労災保険(労働者災害保険)はその名の通り、企業などで働く労働者のための制度です、しかし例えば大工さんなどの一人親方は建設会社などから仕事を受けて自分自身が働き収入を得ますので、実態としては労働者と変わりませんよね?
よってそのような人たちのために特別加入の労災保険の制度が整えられ、一人親方などは任意で労災保険に加入できるようになっています。
では、なぜ特別加入の労災保険に入るべきなのか??
それは、業務上および通勤途上の事故によるケガや病気の補償において、労災保険より条件のよい保険は見当たらないからです。特に業種によってはケガはつきもの、何十年も現場で職人をしていればケガもします、ちなみに僕のおやじも仕事中マルノコ(電気のこぎり)で指の一部を切断するようなケガもしています。(小指ではないです)。
いくら払って、いくらもらえる?
まずは知りたいところとしてはいくらかかるのか?そして万一の時にいくらもらえるのか?ですよね。
通常の労災保険は収入によって保険料と補償額が決まります。
しかし特別加入の労災保険の特徴は自分で補償額(給付基礎日額)を決めることができることです。(注意点:一度決めた補償額は毎年3月末まで変更できません)
保険料は業種により細かく定めれているので、ここは大工さん、すなわち建設業の一人親方を事例に、保険料や補償の基準となる「給付基礎日額」が2万円の場合の事例を以下のスライドにしました。
給付基礎日額によって支払いする保険料や補償額が決まります、給付基礎日額は3,500円から25,000円まで16段階に分かれいます。
業務上の災害に限定されるものの、医療費は全額給付、けがで仕事ができなくった場合の休業(補償)給付、障害(補償)給付が充実していますね。
厚労省のチラシを見ると、建設業に従事する一人親方の80名程度が毎年事故で死亡し、うち45%が労災保険に入っていないようです。
もし当時のおやじにアドバイスできるなら、「パチンコを月1回だけ我慢して労災はいっとけ!」と言いたいですね。
特別加入の労災保険の加入方法は?
一人親方は会社に所属していないことから、特別加入については、一人親方等で組織する団体(特別加入団体)を事業主、一人親方等を労働者とみなして労災保険の適用を行います。
小難しく書いていますが、つまり特別加入団体を経由して加入します。厚労省のチラシには、最寄りの労働基準監督署に問い合わせるように記載しています。
また、ウェブで”一人親方 労災保険”と検索すれば、特別加入団体の広告がたくさん出てきます、また厚労省のサイトに特別加入団体の一覧も掲示されていますので、そちらを確認して直接問い合わせすることも可能です。
小規模企業共済で自分の退職金を準備
小規模企業共済って何??
FPのテキストではさらっと触れるぐらいの(だが試験には高確率で出る)制度ですが、歴史も古く(1965年に開始)多くの事業主の方が退職金等の準備に活用している制度です。
ざっくり説明すると、毎月掛け金を支払い、その掛け金に応じて廃業や死亡、または65歳を超えて一定の期間以上の払込をしている場合に、その掛け金に応じて退職金や年金形式でお金を受け取ることができます。
ちなみにどれくらいの規模かというと、中小機構のサイトから在籍人数は約159万人、集まった共済金の運用規模は11兆円に迫る規模です。
ポイント1_掛け金は全額所得控除!
月々の掛け金は1,000~70,000円で、500円刻みで選択可能、そしてタイトル通り掛け金は全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)できます! 一人親方が経費にできる月7万円の領収書集めるのは大変です。
簡単に計算すると、月2万円で、10%の所得税率であれば、年間24,000円の節税効果です。
この控除により具体的にどれくらいの節税効果があるのか?中小機構のサイトにすごく便利なシミュレーションができる機能があるので、ぜひ使ってみて下さい。
ポイント2_受取時は退職所得扱い
一人親方稼業を引退(廃業)する際に、共済金を一括で受け取りする場合は、退職所得扱いとなります。
退職所得の計算方法(加入年数20年以下の場合)
退職所得=受け取った共済金の額 – (加入年数 × 20万円)× 1/2
例)加入年数20年で800万円の共済金を受け取った場合
800万円 – (20年 × 20万円) × 1/2 = 200万円
また年金として受け取りすることも可能で、その際には公的年金と同じく雑所得扱いとなります。
自分で支払った掛け金の受け取り時に所得税と住民が課されますが、共済金については前項のとおり所得控除による節税効果。また掛け金に応じて、必ず決まった額が受け取り出来る、つまりiDecoのように元金が減るリスクはありません。
加入期間や掛け金によりますが、トータルでの実質的な返礼率はかなりのプラスになります。(これも前項で紹介した中小機構のサイトのシミュレーションでわかります)
ポイント3_掛け金の範囲で貸し付けが受けられる
ほんとに何があるかわからない一人親方、僕の経験からもこの制度は重要ではないかと思います。
保険の契約者貸し付けと同じように、掛け金の範囲(7~9割程度)で低利の融資を受けることができます、利率も低く本記事記載時点で年利1.5%です。
共済金の計算方法
受け取り理由により共済金額に違いがある
掛け金は月々1,000円から70,000円で、500円刻みで設定できます。そして受け取り理由により受け取れる金額が相違します。
共済金の種類 | 受け取り理由(個人事業主) | 受け取り理由(法人の役員) |
---|---|---|
共済金A | 個人事業を廃業した場合 死亡した場合 | 法人が解散した場合 |
共済金B | 65歳以上かつ180か月以上掛金を払った人 | 65歳以上かつ180か月以上掛金を払った人 65歳以上で役員を退任 病気ケガが理由で役員を退任 死亡した場合 |
解約手当金 | 任意解約 12か月以上掛け金を滞納(機構解約) | 任意解約 12か月以上掛け金を滞納(機構解約) |
受取金額(共済金A、共済金B)の計算方法
共済金AとBの共済金の受取額は期間5年ごとに以下の通りのテーブルが公開されています。また解約手当金については具体的な計算テーブルは公開されていませんが、支払い期間が240か月未満の場合は、掛け金合計を下回ると明記されています。
加入期間 | 共済金A | 共済金B |
---|---|---|
60か月(5年) | 31,070円 | 30,730円 |
120か月(10年) | 64,530円 | 63,640円 |
180か月(15年) | 100,550円 | 97,020円 |
240か月(20年) | 139,320円 | 132,940円 |
300か月(25年) | 217,400円 | 210,590円 |
上記の表は500円を1口としていますので、掛け金が20,000円の場合は、上記額を40倍すればよいです。
※すでに紹介した中小機構のシミュレーションができるサイトで細かい設定での具体的な金額は試算できます。
加入方法
一人親方の場合は確定申告書と中小機構が定める様式の契約書、口座振替用紙などを準備して*窓口で申し込みします。
窓口は委託団体と代理店があります、委託団体は商工会議所など、代理店は銀行などです。
加入についての詳細は中小機構のサイトから確認しましょう。
国民年金基金に加入して年金を増やす
何もしなければ一人親方の年金は国民年金だけ
最後は国民年金基金についてです。
一人親方などの自営業者(第1号被保険者)の場合は、何もしなければ国民年金(老齢基礎年金)のみです、サラリーマンや公務員(第二号被保険者)などのように、厚生年金はありません、
令和4年度の国民年金額(満額の場合)は月額64,816円です、正直ほとんどの人はこれだけでは心もとないのでは??
そこで、自営業者の年金を上乗せをするために平成3年に設けられたのが国民年金基金です。
最近はiDecoという個人年金の仕組みも登場して言いますが、僕の意見としてはまずは運用リスクのない、つまり年金額が確定している国民年金基金への加入を優先すべきと思います。
掛け金と年金額
年金のタイプ
国民年金基金はまず1口目は必ず終身年金(A型またはB型のどれか)に加入、2口目以降は終身年金に加えて、ⅠからⅤ型の確定年金(年金支給期間が確定)に加入します。
1口あたりの終身年金の基本額は50歳までの加入で1万~2万円、確定年金額は1口当たり5千~1万円で、加入年齢や加入のタイミング(誕生月から月数)で調整されます。
35歳までに加入すれば、終身年金の基本額は2万円、確定年金の基本額は1万円となります。
種類 | タイプ | 支給開始 | 補足 |
---|---|---|---|
A型 | 終身(保証期間15年) | 65歳 | 保証期間内に本人死亡などした場合 遺族に一時金が支給される |
B型 | 終身(保証期間なし) | 65歳 | |
Ⅰ型 | 15年確定年金 | 65歳 | |
Ⅱ型 | 10年確定年金 | 65歳 | |
Ⅲ型 | 15年確定年金 | 60歳 | |
Ⅳ型 | 10年確定年金 | 60歳 | |
Ⅴ型 | 5年確定年金 | 60歳 |
掛け金
1口当たりの掛金は年金額の種類ごとに、加入時の年齢、性別に応じて設定されています。
民間の保険と同じく、若いうちに入れば年金の支給額に対して掛け金は低く抑えられることになります。
国民年金基金のサイトで36歳でA型、Ⅰ型、Ⅲ型、にそれぞれ1口ずつ加入した場合の掛け金と年金額の例です(僕の年齢ではないです!)
タイプ | 口数 | 掛金(月額) | 年金額(年額) |
---|---|---|---|
A型(終身年金・保証期間15年・支給開始65歳) | 1口 | 10,140円 | 18万円 |
Ⅰ型(15年確定年金・支給開始65歳) | 1口 | 2,380円 | 6万円 |
Ⅲ型(15年確定年金・支給開始60歳) | 1口 | 2,565円 | 6万円 |
合計 | 15,085円 | 30万円 |
ちなみにⅠ型の場合60歳まで支払うと、約69万円、支給は6万円×15年で90万円となります。
前述の小規模企業共済と同じく国民年金基金のサイトでシミュレーションができてすごく便利ですよ!
国民年金基金のポイント
ポイント1_掛け金が全額所得控除!
小規模企業共済と同じく、全額所得控除(社会保険料控除)できます!
これはやはり大きなポイントですね、民間の保険だと控除は4万円ですので、節税効果は大きいです。
節税効果もありますので、民間の年金保険よりもかなりお得です。
ポイント2_扶養家族も加入可能!
加入資格は原則20歳~60歳までの自営業者などの第一号被保険者、よって一人親方だけでなく、年齢が範囲内なら一人親方の扶養家族(主に配偶者)や、さらには就職前の学生も加入可能です。
つまり、扶養している妻も加入し、掛け金を負担すれば、その分も所得控除が適用されます。
ポイント3_終身年金で安心
1口目は終身年金のAまたはB型に加入しますが、長生きリスクという言葉が最近話題になるように、終身年金に加入できるのは大きな安心です。
終身年金をベースにして、ⅠからⅤ型の確定年金を組み合わせて、自分の年金をカスタマイズできます。
国民年金基金に関する留意点
加入額には上限がある
加入額(掛金)には上限があり、月額1人当たり68,000円です。
さらに注意が必要なのは、iDecoの掛け金と合算されて計算されますので、iDecoの加入をしている、または検討している際には注意が必要です。
原則脱退ができない
原則脱退ができません、脱退ができるケースは、自営業から会社員(第2号被保険者)になった、会社員等と結婚し第3号被保険者となった場合です。
その場合は、加入期間に応じて将来年金として給付されます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
本記事は自営業の方、特に自分の父親と同じ大工さんなどの一人親方をイメージして記載しました。
次回は今回の労災保険、小規模企業共済、国民年金基金ではカバーできない部分についての生活保障について記事にしたいと思っています。
今後ともよろしくお願いいたします。
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